東京高等裁判所 昭和44年(ネ)1016号 判決
控訴人らは、債権の担保として抵当権と代物弁済の予約とが並存する場合に、債権の一部弁済があるときは、債権者の代物弁済の予約完結権は衡平の原則上消滅し、抵当権の行使のみが許されることとなる旨主張するが、必ずしもさように解すべきではない。というのは、なるほど債権の大半が弁済せられたような場合には、代物弁済予約完結権の行使が権利の濫用として許されないこともあるが、本件のように九〇万円の債権に対し一〇万円の内入弁済があるに過ぎないような場合には、未だ権利濫用の法理を介入せしめる余地はなく、代物弁済の予約完結権を選択すると抵当権を選択するとは債権者の自由だからである。しかも右代物弁済の予約が本来の意味の代物弁済の予約ではなくいわゆる処分清算型の担保契約である場合には、債務者に対する関係では、債権の一部弁済の額の多寡にかかわりなく、債権者は代物弁済予約完結権を自由に選択し得るものというべきである。なんとなればこの場合代物弁済の予約と抵当権との間には清算的手段たるの点において比重の差はないからである。とすれば本件代物弁済の予約が前者の場合はもちろん、後者の場合にあつても、被控訴人は抵当権を措いて代物弁済予約完結権を選択することが自由であり、後者の場合にも契約目的に従つた換価処分をなす前提として、目的物件たる本件建物につき所有権移転登記を受け、かつその引渡を受ける必要があるのであるから、被控訴人が契約当事者たる控訴人松尾満子に対し本件建物につき、前記仮登記(代物弁済の予約を原因とする仮登記につき、停止条件付代物弁済契約を原因とする仮登記を経由しても、効力に変りはないことは判例の示すとおり。)の本登記手続とともにその明渡(引渡)を求める本訴請求は理由がある。
(古山 川添万 秋元)